第1回 ロジカルスキル研修の必要性

以下は、財団法人関西生産性本部の機関誌「KPCニュース」2008年5・6月号での連載記事です。

●はじめに

 昭和63年よりディベート研修の講師を始め、約30年の歳月が経った。弊社では現在、ロジカルスキル系の研修全般へ研修のラインナップを増やし研修を企画実施している。研修実施先は、自動車会社、銀行、IT、建築、ホテルをはじめ、党首討論対策のための研修など、民間企業から公務など多くの業種、業界に亘る。 これまでの受講者は2万人近い。普段の研修は受講者の業務内容そのもので実施することが多く、文章で公開することが守秘義務上むずかしい。しかし今回は、関西生産性本部より熱心なご依頼を頂いたので、汎用的な事例で説明することを前提として、ロジカルスキルのエッセンスを紹介することになった。

人を動かすために必要な3つのポイント

日本人の多くが、議論技術はもとより、ロジカルなコミュニケーションスキルを学んだことがほとんどない。上司から「ロジカルに考えろ」と指導されても「具体的に何をどのようにするか」の指導もない。やり方や考え方がわからないことは、努力や気合を入れてもできないのである。部下指導はもとより、人を動かすためには、次の3つ全てが揃わなければできない。

人を動かす3つのポイント
1. 根拠の理解
根拠の理解とは、理論や理由を明確に知ることである。理論や理由が判らなければ、その場限りとなり、同じような場面に遭遇しても的確な判断や自律的な行動ができない。 根拠の理解ができれば、類似場面に遭遇したときに、根拠に基づいて、一人で理解や判断が下せる。 つまり、自分で理解・判断できるようになるので、応用や機転がきく。
2. 事例の理解
事例の理解とは、エピソード、たとえ話、比ゆを具体的に知ることである。 事例や比ゆがなければ、理論が空回りし実感がわかない。また記憶にも残らない。 事例が理解できれば、単なる机上の空論ではなくなり実感できる。また記憶にも長く残る。 つまり、事例の蓄積が礎となり、思考や行動を変容させる。
3. 手順の理解
手順の理解とは、方法、動作、作法を確実に把握することである。 根拠や事例が理解できても、実際の手順がわからなければ、やりたくてもできない。 手順の理解ができれば、具体的にどのように行動すればよいかがわかる。つまり、人に頼ることがなくなるので、自信がつく。

今回は、上記内容の作成に活用した思考ツール:マトリクスをお見せしよう。

人を動かす3つの要素

またこれをパワーポイントで説明する場合も添えておくので参考にされたい。

人を動かす3つの要素

自己流は非効率なので、ロジカルに思考する方法は学習する

ロジカルに考えること、話すこと、書くことなどには、各種の道具やルールがある。これを知り、実践することで、思考の生産性をあげることができる。言い換えれば、ルールを学んだ経験がなければ、自己流となり、上司が指示や朱を入れた文書が、むしろわかりにくくなることがある。なぜこうしたことが起こるのか。 それは経験により、自分は文章がわかりやすく書けると錯覚しているからである。たしかに経験により身につくスキルも世の中には多い。例えばスポーツ全般は、経験によりそのスキルが身につく。テニスやゴルフでボールが、空振りしたり、思ったところにボールが飛ばなかったりすると、この原因は道具ではなく、自分のやり方が悪いのだとすぐわかる。つまり自分の行動の直後に、フィードバックがあるからこそ、自分のやり方の悪さに気がつく。したがって、コーチから アドバイスを受けることで、正しいスキルが身につくのである。ではあなたの仕事を考えてみよう。メールや報告書へのフィードバックがあるか、会議の成果についてフィードバックがあるか。ほとんどないだろう。またどこを、どのように書き直せば、わかりやすくなるのか、文章の書き方のルールに即して、OJTを受けた人は、ごく少数の人しかいないだろう。多くの場合が、それではダメだという評論どまりである。

誌上講座の狙い

もしかすると、あなたはロジカルに考えることはとても難しいことであると思い込んでいるかもしれない。ロジカルに考えることは簡単である。「自分の意見に根拠を添えること。」これだけである。しかし意見や根拠が複数あるので、これらを整理し、文章やプレゼンテーションとして全体構成を考えることが難しい。これとて、本講座でこれから説明する各種のルールを適用すれば、情報の整理も容易に進む。本稿は、次回以降次のテーマに沿って、ステップアップで学習を進行していく。ロジカルシンキング、ロジカルライティング、ロジカルプレゼンテーション、ロジカルファシリテーション、ロジカルネゴシエーション。つまり最初は ロジカルに考えること、つまり主張と根拠をセットにする。次にこの内容をわかりやすく書けるようになり、話せるようになる。さらに会議で的確に議事進行でき、折衝力・交渉力へと結実させていく予定である。

  • 第1回:ロジカル研修の必要性(本稿)
  • 第2回:ロジカルシンキング ~三角ロジックで主張に根拠を伴わせる〜
  • 第3回:ロジカルライティング ~7つのルールで、一読で理解できる文章を書く~
  • 第4回:ロジカルプレゼンテーション ~聞き手のニーズを的確につかみ、提案する~
  • 第5回:ロジカルファシリテーション ~発想の転換で会議の生産性を向上させる~
  • 第6回:ロジカルネゴシエーション ~互いの利益を最大にする視点とコミュニケーションスキル~

私とご縁のあった方には、私の持てる知識・情報・ノウハウを提供して、少しでも幸せになっていただきたいと思っている。誌上はその特質上、情報伝達が一方的になるので、読者諸兄から、質問に応える形で内容の充実とフィードバックをしたいと考えている。各種ロジカルスキルに関する日ごろの疑問点、実務上の問題点を関西生産性本部の担当までお寄せいただきたい。誌面もしくはメールなどでできる限り回答していく予定である。

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