第5回 ロジカル・ファシリテーション ~第一線のリーダーに求められる会議力~
以下は、『人事マネジメント』2016年7月号「ロジカル・コミュニケーションスキル実践講座」での連載記事(全6回)です。
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●はじめに
ご質問のとおり,近年,働き方は正社員だけでなく派遣・パートや業務委託など多様化しています。多様化に対応するためには,論理的なミーティングマネジメントが必要です。
それは問題解決のリーダーシップと同様,権力ではなく権威によるマネジメントです。
- 命令:相手を強制的に何かさせることができ,物理的に動かせる(権力)
- 信頼:相手から大切にされることで,集団の行動に結びつけられる(権威)
信頼によるマネジメントを実践するには,目的を共有し動機づけることが必要です。結果が出るミーティングのマネジメント力向上には,論理的な会議運営つまりロジカル・ファシリテーションを学習するとよいでしょう。ロジカル・ファシリテーションとは,知と情のコミュニケーションです。
知のコミュニケーションとは,論理的に話し合うことです。具体的には,「目的を共有し,問題を整理し,そして順番に一つひとつ話し合い,行動計画を決める」ことです。言葉では単純に感じるかもしれませんが,実践には各種スキルが必要です。
情のコミュニケーションとは感情・気持ちを聴くことです。自律的な改善や行動が進むように職場をつくるには,論理だけでなく感情・気持ちも聴くことが欠かせません。感情を聴くことがなければ,頭で分かっていても行動に移しにくくなるのです。
●リーダーに求められるロジカル・ファシリテーション
論理的な話し合いをするには,以下の6つのステップでメンバーとミーティングを進めてください。
- 会議の目的や課題を皆に理解してもらうことです
- 情報やアイデアをなるべく多く出してもらいます
- 出された情報やアイデアを分類・整理し,掘り下げてください
- 状況と対応にズレがないか確認したうえで,今後の行動を計画します
- 反論や今後の課題を先取りします
- 議事録を作成し,全員の確認を取ることが大切です
アイデアを多く出し,整理する方法は,連載第2 回の「ロジカル・シンキング研修」の際に説明したブレインストーミング法やKJ法を活用すると効果的です。ファシリテーションスキルは,研修で学ぶだけでもその効果は画期的ですが,ロジカル・シンキング研修と連動させて実施すると,より効果が高まります。
●ステップ1:組織や業務の目的を皆が理解する
結果の出るミーティングにするためには,会議の目的や課題を的確に共有することです。会議の場で概要を説明され,意見を求められても良いアイデアは考えつきません。これは皆さんも苦い経験があると思います。
全員が一堂に会して会議をすることが減っていく時代,少ない機会を活かし会議を成功させるには,会議テーマの事前案内と対応を検討しておくことがますます重要なのです。そのためには,ロジカル・プレゼンテーションで学習した「総論」の要素を活用することです(図表1 参照)。
●社内講師の特徴
プレゼンテーション研修は,社員が講師を務める組織も少なくありません。しかし,内部の人が講師を務めると研修がうまくいかないこともあります。
例えば,内部であるがゆえに,情報を知りすぎていて,説明が不足していても気づかなかったり,他社との優位性の比較が不十分なのに,ひいき目に見てしまったりすることがあります。
これは,プレゼンテーションに限らず,他の研修でも同様に発生します。もちろん,より厳しい視点でコメントをすればこの問題は発生しません。しかし,年齢や役職,業務実績が上でないと,改善指摘を聞き入れてもらうことは現実的には困難です。
情報を熟知していることはときに弱みになりますが,もちろん同時に強みでもあります。社内講師は外部講師と比べて,業務内容面へのコメントが充実します。特に,欠落している情報があることを指摘できるのは社内講師です(図表1 参照)。
また,会議メンバーの人選も大事です。チーム全員を会議に呼ぶのではなく,影響が出たり利害が生じたりすると思う関係者だけにします。会議の時間を減らし,担当業務に集中できるよう工夫することもリーダーの大切な役割です。
何のための会議であるか,いつまでに何を決めるかを全員が認識できるようにするため,古典的ですが,5W1Hも有効です。
Why:そもそも何があったのか
When:納期
Who:担当者
Where:場所,担当部署
What:何をどうする
How:どのようにして
●ステップ2:情報やアイデアを出す
会議開始時は,事前案内で依頼した概要と時間配分を確認した後に,各自の発言を促してください。このステップでは,批判はせず,情報や思考を拡散させ情報を出し尽くします。情報の質よりも量(網羅性)を優先してください。
発言は端から順番ではなく,近いトピックやアイデアを優先させると議論が広がります。会議では「発言を人で区切るのではなく,トピックで区切る」ことが成功の秘訣です。例として,市役所の土日開庁をテーマに,箇条書きでアイデアを出したものを図表2に示します。
各自が問題や原因,対策などをバラバラに述べたときは,まずトピックや争点を整理します。この「ポイントを整理する力」がロジカルな会議をする秘訣なのです。
参加メンバー全員が積極的に関与・行動することは難しいものです。そのときは「何に不安を感じているか,どのような考えがあるか」を関連させて聞くことが,情のコミュニケーションとして大切です。「話を広げてから絞り込む」ことで後々の不満も減少できます。
●ステップ3:情報やアイデアを分類・整理し,深める
情報やアイデアを一覧できるようにしてから,分類・整理をしてください。話し合いでは,常にゴールを意識して,話し合わなければならないポイントはいくつあるのかを意識してください。
特に,議論に没頭するのではなく,議論の交通整理をすることが大切です。リーダーが結論や方法を示すのではなく,交通整理をすることで,メンバーが自分の頭で考え,整理し,対策がまとめられるように支援してください。話し合いでは,メンバーの理解度と納得度に常に配慮してください。
詳細のテクニックは,連載第2回のKJ法のポイントを参照してください。ここでは,先に挙げた「市役所の土日開庁」について例示します(図表3 参照)。
●ステップ4:状況と対応にズレがないか確認したうえで,今後の行動を計画する
共有された目標・ゴールに対して,現状の認識やニーズ,行動の連動を改めて確認してください。この呼応関係の確認をすることがロジカルな進行に直結します。しかし,この確認が精緻すぎると,かえって混乱のもとになります。ポイントは何か,いま何を話し合っているかを整理することが重要です。
例えば,土日開庁する必要性として,「育児相談ができない」という市民の声を挙げておいて,育児相談窓口を開庁対象にしなければ、状況と対応にズレが生じていることになります(図表4 参照)。
●ステップ5:反論や今後の課題を先取りする
会議では,「そもそもやる必要がないのではないか」や「やりたくてもできない」と,議論の逆流や論点のすり替えが起こりやすいものです。逆流させないために,行動目的やゴールを最初に確認しておくことです。
例でいうと,土日開庁の対象部門に所属している職員は,子供と休日がずれてしまうことを懸念するかもしれません。このような問題点も交代で土日を休んでいる民間企業の対応方法を参考にすればよいことです。
重要点は目標の共有です。「すべきである」ことが共有されると,できない理由を挙げてもらうことは無意味であると感じて,しなくなります。すると,「どうすればできるか」や「課題・反論の先読み」ができるようになります(図表5参照)。先読みのテクニックは,連載第2 回での「リンクマップ法」を参照してください。
●ステップ6:議事録で確認を取る
ファシリテーターは,会議の最後に話し合いで決まった内容とその根拠を言葉に出して確認をしてください。また,決まらなかった内容や今後の検討課題なども確認します。そして,その内容を議事録にします(図表6 参照)
- 議事録のポイント
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(1)事務的な内容:会議のタイトル,日時,会場,出席者,作成者,作成日を明記
(2)決まったこと,確認したこと:結論と理由を書き,感想は書かない
(3)決まらなかったこと,新たな課題:次回の会議までに,誰が,何をするかを明記
●まとめ
ロジカル・ファシリテーションで重要なのは,「目的を共有し,問題を整理し,そして順番に一つひとつ話し合い,行動計画を決める」ことです。特に,話し合う場の交通整理が大切です。
また,会議では感情などにも配慮・対処しなければならないことも多数あります。つまり,知のコミュニケーションだけでなく,冒頭で説明した情のコミュニケーションも大切です。
この誌面では,知のコミュニケーションを中心に解説しました。情のコミュニケーションについては別の機会に説明をしたいと思います。
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