第2回 ロジカル・シンキング ~自分の頭で考える方法~

以下は、『人事マネジメント』2016年7月号「ロジカル・コミュニケーションスキル実践講座」での連載記事(全6回)です。

質問
ロジカル・シンキングのトレーニングが部下に必要だと言っていた営業部長にヒアリングをしてきました。『言いたいことがよく分からないし,そもそも論理的に考えていないようだ』とのことでした。どんな研修を実施すればよいですか?
回答
思考を整理するツールが習熟できる研修を選択する
三角ロジックで根拠を明示し,リンクマップで筋道を示す練習が有効
KJ法など情報を整理するツールを学習する

●はじめに

 今回のように,「論理的に考えろ」や「話が分かりにくい」と指摘される人は,老若男女問わず少なくありません。論理的に考えたり,コミュニケーションを取ったりする際に,留意するポイントは次の3つです。1つ目は,論点を区切り,根拠を明示して説明すること。2つ目は,筋道を追って説明すること。3つ目は,情報を正しく分類・整理すること。根拠を示すには三角ロジックが,筋道を追うときはリンクマップ法が有効です。そして,情報を分類・整理するにはKJ法が最適です。 この3つの切り口は,業種・業界問わず,ほぼすべての業務をカバーできます。このような思考ツールが習熟できる研修を導入するとよいでしょう。

私たちの身の回りは,非常に多くの情報があります。インターネットがない時代は情報が限られていたので,どのようにして情報収集するかが重要でした。現在は,多過ぎる情報から,本当に必要な情報を選んだり,まとめたりすることが重要になってきました。この情報の分類・整理力が不足していると,「論理的に考えろ」や「話が分かりにくい」と指摘されてしまいます。

●根拠を示すトレーニング:三角ロジック

 結論から話し,根拠を伴わせるためには,思考のツールである三角ロジックを活用することです。三角ロジックでは,情報を主張,データ,理由づけの3つに分類します。主張とは,結論や言いたいことです。データとは,事実や統計等を指します。理由づけとは,主張とデータをつなぎ合わせる考え方,判断基準や価値観です。このとき,データと理由づけの2つを総称して,一般的に根拠と呼ばれています。従って,「根拠を示せ」と指示されたときは,事実とその理由を示さなければなりません(図表1参照)。

三角ロジック

●演習

私たちは,普段から論理的に思考しています。その実感をしてほしいので,次の演習問題に取り組んでください。これから,あるストーリーを説明します。ストーリーが理解できたら,地図を見て,逃げるエリアを4択で選んでください。そして,なぜそのエリアを選択したのか,そのわけ(理由)を記述してください。蛇足ながら,どのエリアを選んでもすべて正解です。不正解はありません。
 時代は第一次世界大戦期。フランスは隣国のドイツと戦っていました。今般,ドイツ軍はパリを砲撃するために新型の大砲を完成させたそうです。これまでの爆撃はパリ各所にあり,市民を震え上がらせていたのです(図表2参照)。この新型の大砲が発射されると聞き,あなたは逃げだそうとしています。(※このストーリーはフィクションです)
 では,あなたはA~Dのどのエリアに逃げますか?その理由はなぜですか?

演習

●解説

 選んだエリア・記号が主張・結論です。ストーリーと地図がデータ,そして,なぜそのエリアを選択したかという説明が理由づけとなります。例えば,Aを選択した人の理由は,「今まで弾着がないので,これからも大丈夫であろう」と考えたり,Bを選択した人は,「もうこれ以上は狙われないだろう」という理由を考えたりしたはずです。すべてのエリアが正解であると先に説明しました。なぜなら,この時代の大砲は現代と違い,狙って砲撃することはできませんでした。狙えないので,どのエリアに逃げても正解です。ここで理解してほしいことは,「理由づけ」を言葉にして,明確に伝えることの難しさです。業務では,お客様との会議で,「どのような発言があったか(事実)」を上司に伝えることは簡単です。しかし,その次の行動(主張・結論)や,その結論に至った理由を伝えることが困難なのです。その結論に至ったときに,整理して書き留めておかないと,すぐ忘れてしまいます。この三角ロジックを用いた分析・整理が上達すると,上司や同僚はもちろん,お客様からも,共感が得られやすくなります。上達にはトレーニングが不可欠です。

 自動車の運転免許と同様に,学科(理論)を学び,適切に操る(演習)ことができなければ,意味を持ちません。このようなコミュニケーション研修は,単なる知識習得型ではなく,技術向上に重きを置いた研修を選択する必要があります。三角ロジックを意識すると,結論は何か(要するにどういうことか),データ(具体的には何か),理由づけ(なぜそう考えるのか)という問いに応えられます。意思疎通がうまく進まなかったときも,三角ロジックを活用すれば,理解してもらいやすくなります。

●筋道を追って説明する:リンクマップ

さて,もう1つの学習すべきポイントは,筋道を追って分かりやすく説明をする方法です。まず,分かりにくい説明とは何かを考えてみましょう。それは結論を先送りして,「自分の見たこと」「聞いたこと」「考えたプロセス」など複雑な状況や情報を推敲することなく,そのまま再現した状態です。このように再現だけで話が終わってしまうと,上司から「で…」と,その先の行動について,質問されてしまいます。事実再現型で説明すると,聞き手は結論が見えないので,途中でイライラしてしまいます。また,説明も長くなりがちで,集中が切れ,結論の妥当性を確認するために,再度,事実の確認をすることになってしまいます。従って,説明が二度手間になり,時間効率も悪くなります(図表3参照)。説明が分かりにくいと指摘される人には,「それで…」という言葉を使わずに「なぜなら…」という言葉で報告するように依頼してください。

リンクマップ

 結論から話をするためには,報告する前に情報や状況を網羅的に整理・把握しておく必要があります。網羅的に把握するには,リンクマップ法を活用することが最適です。

 リンクマップ法では,「どうしてそうなるの?(間を埋める)」「するとどうなるの?(先を伸ばす)」「どれくらい?」「本当か?」等の合いの手を入れて作成します。
  「たばこ税の増税」の例を図表4に示します。結論から話し,必要な情報だけを報告するには,リンクマップ等を活用して,全体像をまとめてください。次に,争点(イシュー)を見つけ出し,必要な結論と経緯を選んで報告してください。

logicalthinking4.png

●情報を分類・整理するツール:KJ法

論理的思考で最も大事なことは,情報を正しく分類・整理することです。分類や整理が正しくないと,どのような思考ツールを活用しても無意味になってしまいます。
 分類や整理を効果的に進めるにはKJ法が最適です。KJ法は,発想,分類,見出しづけ,配置・整理の4 つのステップで進めます(図表5参照)。

logicalthinking5.png
1)発想
 ブレインストーミング法などを用いて,アイデアや情報を付箋などに簡潔に書き出します。その際,文章ではなく独立した最小の意味を持つセンテンスやキーワードごとに書き出します。1枚の紙には1つのことだけを書きます。ブレインストーミングをするときは,批判せず,互いのアイデアに便乗する,質より量というルールを守ります。「批判せず」というルールを守らないと,誰も意見を言わなくなってしまいます。
2)分類
 類似した情報を寄せ集めてください。このとき,区切りを明確にするために,付箋に書かれたアイデアのまとまりを線で囲むと,視覚的な整理が進みます。しかし,分類が1回で正しくできることは稀です。何回も貼り直して最適な場所を探してください。また,1つのグループは,7つ程度の情報に抑えてください。情報が多い場合は,細分化したり,別の括りに移したりしてください。
3)見出しづけ
 分類された情報に要約もしくは,要約文を作成してください。2回,3回と別の表現を試みて,最善の見出しを据えてください。また,要約のつけ方により,情報の分類をやり直さなければならないこともあります。
4)配置・整理
 説明しやすいように見出しの順番を考え,整理してください。整理の順は,優先順位や手順を活用するとよいでしょう。優先順位とは重要な順や問題の深刻度であり,手順とは過去から現在,現在から未来など時系列を指します。

●まとめ

論理的に分かりやすく説明する秘訣は,複雑な関係や状態を単純化することです。私の仕事は特殊だとか,複雑で簡単には説明できないと言う人は多いです。そもそも,現代の仕事は,どのような仕事でもたいていが複雑で高度です。複雑な内容を単純化して説明すると,正確性は低下しますが,分かりやすさが劇的に向上します。まず,KJ法で情報の分類や整理を的確にするスキルを向上させてください。情報の分類や関係が正しく整理されていないと,その先の説明もピントがぼけてしまいます。次に,三角ロジックで根拠を示したり,リンクマップで筋道を追って説明したりすることを学習させてください。このようなポイントを盛り込んで研修を企画するとよいでしょう。

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関連情報

著者:別所 栄吾(べっしょ・えいご) 
株式会社BCL代表取締役 https://www.bzcom.jp
 
▶信条「知らないことはできないし,選択肢にすらならない。だから教育は大切なんだ。
近著:『あなたの職場は,なぜ問題ばかり起こるのか?』『会議は長いのに,なぜ何も決まらないのか?』『あなたの話は,なぜ伝わらないのか?』(日本経済新聞出版社)講座:「実践ロジカル・コミュニケーションスキルズ」「成功するミーティング・折衝スキル」「ビジネスディベート」(日経ビジネススクール)ほか

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