(コラム)トランプ大統領の交渉術は、マッドマンセオリー

トランプ大統領の交渉術は、ニクソン大統領がソ連との外交交渉で取っていた、「世界破壊も辞さない」という「マッドマンセオリー」を実践しているのではないかと私は思います。これに対抗する方法は、間接反証法やターンアラウンドが有効だと思うのです。

マッドマンセオリー(狂人理論と訳されています)とは、ありえない発言、狂気の振りを繰り返すことで、相手に譲歩案、妥協案を用意させることです。そして、実際に交渉するときは現実的な話をするのです。マッドマンセオリーという相手の土俵に乗ると、交渉相手は、「持参した妥協案で関係を維持・構築できた」と誤解します。そもそも案を提示した時点で、交渉に負けています。

現在、自動車会社をはじめ、多くの企業や国が振り廻され、妥協案どころか、気に入られる対応を取っています。ある自動車会社が名指しで批判されると、批判されていない他の自動車会社も対応を取り始めます。この批判されていない企業が、対応を先取りして、米国優先に誘うことが一番のねらいに見えます。

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例えば、トランプ大統領のツィッターでは、

General Motors is sending Mexican made model of Chevy Cruze to U.S. car dealers-tax free across border. Make in U.S.A.or pay big border tax!

GMは、メキシコで作ったシボレークルーズを関税を払わずにアメリカのディーラーに送っている。アメリカでつくれ、さもなくば、たくさんの関税をかけるぞ!

この他にも、フォードは、メキシコ工場進出を撤回し、ミシガン州の既存工場を強化する方針を示しました。トヨタも米国の工場の強化を発表しています。

しかし、トヨタの工場強化は、以前から計画されていた内容だったので、単なる既定路線を強調しただけです。つまり、トヨタはプレゼンテーションの仕方が上手いのです。「したたか」という言葉の例示は、このトヨタのケースがぴったりだと思います。

米国のメディアも、発言や個別の批判に振り廻され、右往左往しています。こんなときこそ、(おかしな)主張に着目するのではなく、事実・数字に着目して冷静な報道や対応をしてほしいと思います。たとえば、日本も貿易不均衡を指摘されていますが、米国から日本に車を輸入するときは、関税0%、しかし、日本から米国に輸出するときは、2.5%かかっています。

それでもなお、事実を突き付けても、「それはfake(でっちあげた)だ」と逆に批判され、取材許可が取り消されたり、でっちあげをする報道機関の質問には答えないといわれたりしています。

こんなときは、間接反証法やターンアラウンドを使うと効果的であると思います。間接反証法とは、主張(以前の発言)と主張(今回の発言)が違う場合、相手に説明を求める方法です。通常は自己矛盾に気づき返す言葉がなくなります。このほかにも主張と行動の矛盾、行動と行動の矛盾を指摘することです。

言い方や表現も大切です。指摘をする(間違っているぞ!)と、干されるので、日本流に、「2つの主張を引用して、私には理解力が不足しているようなので、この2つの真意が掴めません。どのように理解すればよいか、ご教示ください」と表現するとよいと思います。

ターンアラウンドとは、相手の発言を逆手にとることです。例えば、『「メキシコからの輸入品に関税をあげる」というのならば、自動車だけでなく、アパレルにも関税が強化されることになりますね。もし、それが実現されると(What if~)、あなたのアパレルブランド商品、DONALD J TRUMP SIGNATURE COLLECTIUON(MADE IN MEXCO)にも関税が強化されることになりますね。そもそも、あなたのアパレルブランドが米国製でないことは、「メキシコで作るな、米国で作れ」と主張されていることに矛盾を感じます。いつ米国製に変更されるのか、ご計画を教えてください』と質問することが効果的だと思います。

米国はじめ各国のメディアは、こうした論法や対応が不足していると思います。トランプの発言やツイートについては、自動車会社をはじめとするメーカーのCEOに聞いても、政治家に聞いても、マッドマンセオリーを実践する人には、あたりさわりのない発言しかしません。自社や自国のことを考えて、「動向を見極めて、しかるべき対応を取る」と発言するだけです。もちろん、名指しして批判された人や組織は、言い訳や反論をします。

トランプ大統領の言動に振り廻されて、日本の企業や政治家が日本の国益(National Interest)に反しないことを祈るばかりです。