第1回 人事考課入門

はじめに

昨年は、ロジカルスキル講座を1年間、全6回にわたり連載をした。本年は、とかく難しいと思われている人事考課と必要な運用ノウハウについて、なる べく簡便な文章と図解でそのエッセンスを提供する。新任の管理職から人事担当者までご活用いただければ幸いである。もしかすると昨年からの読者は、ロジカ ルスキルの講師がなぜ人事について連載をするのか不思議に感じていることがあるかもしれない。また人事は論理ではなく人間性が大事であるから、ロジックを 重んじる者の説明は、社員に冷たい内容ではないかと危惧する方もいるだろう。しかし今一度考えて欲しい。人事制度ほどロジカルなものはない。運用はもちろん人間性を重視する。しかし制度のフレームやルールの勝手な理解や運用はむしろ許されない。

本年度の連載は、概ね以下の目次を計画している。人事考課から育成面接、次期の目標設定面接、そして日常のOJTやマネジメントまで管理職に必要とされるハウツーを一連の流れに即して説明していきたい。(図1参照)各回のテーマは以下のとおりである

  • 第1回:人事考課入門
  • 第2回:人事考課ミニテスト
  • 第3回:評価育成面接
  • 第4回:コンピテンシーと育成
  • 第5回:目標設定面接
  • 第6回:OJTとコーチング

図1:講座の全体像

概要

組織の数だけ人事考課制度がある。しかし人事考課の諸規定や通達文はあっても、体系的にまとめられていたり、説明会を実施していなかったりする。本稿では、人事考課制度を体系的に理解・確認するために、基礎となる一般的な考え方を以下に記述する。言い換えれば、組織ごとに人事考課の細目やルールが違う。公正な評価とは、下記内容に従うのではなく、自社のルールに従うことが大切であることを最初に確認しておきたい。

以下に人事考課をするために最低限必要なルールや手順を説明する。具体的には、絶対考課の前提となる職能資格制度、絶対考課と相対考課の違い、成績、能力、情意の3つの考課の違いや、考課の手順とルール、そして犯しやすい各種エラーなどについて説明していく。

人事考課の目的

組織が永続的に維持・発展するためには、公正な人事制度と部下育成は必要不可欠である。公正な人事制度を実現するためには、成果や発揮された能力を公正に考課し、昇給、昇格、昇進および賞与などの処遇に反映させる。また部下の育成のためには、一人ひとりの仕事に関する能力や意欲を的確に把握し、育成、適正配置、職場の問題点の改善に結びつけることが大切である。このとき大切なのが管理職間の判断のばらつきをなくすことである。つまりAマネージャは 合格としたが、同じ事象をみて、Bマネージャは不十分と判断することが無いようにする。このため判断の基準、言い換えれば、共通の思考のモノサシが必要と なってくる。

職能資格制度と能力

公正な評価と育成には、共通のモノサシが必要である。このために、期待されている業務レベルとそれを遂行するために必要な能力は何であるかを整理する。当然、社員一人ひとりに期待される業務の役割やレベルや保有している能力は違うので、それに即して現在の位置を格づけする。(図2参照)期待されている業務レベルとそれを遂行するレベルで軸を取ることで、社員一人ひとりへ期待されている役割と現在保有している能力が整理できる。この業務レベルで区切り、具体的な業務行動を定義したものが職能資格制度のフレームとなる。(図3参照)

図2:職能資格制度と能力

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相対考課と絶対考課

人事考課は対人比較の相対考課ではなく、職務等級に即した絶対基準で考課する。相対考課とは部下の序列を決めたり、自分と比べたりして考課する方法である。絶対考課では、求められている成果や能力、資格や経験、置かれている状況に応じて目標を決める。そしてその目標に対する達成度合い、発揮された能力、取り組み姿勢などを具体的事実、職務行動に基づいて把握し、分析的に考課する。基準を決めて判断する方法の例として健康診断がある。体温が37度未満 なら健康、それ以上ならば、病気と判断できる。(図4参照)これと同様に自社で、「この業務内容を担当できるのは、J-2級レベルである」というような基準を定義しておく必要がある。この定義が曖昧であると、考課結果がぶれてしまう。定義をまとめたものを職能基準書と呼ぶ。

図4:相対効果と絶対効果:健康診断の例

3つの人事考課

人事考課では、成績、能力、情意の3つの着眼点で考課する。目標達成度を考課する成績考課、職務遂行能力の充足度をみる能力考課、そして職務に取り 組む意欲・姿勢と努力度をみる情意考課である。成績考課は、一定期間(通常1年間)の目標達成度とそのプロセスを客観的に考課する。情意考課も、一定期間 (通常1年間)における勤務態度や意欲を考課する。この2つは過去形で、当該期間の態度や行動を考課する。能力考課は一定時点(現時点)における職務遂行能力の保有度を考課する。これは具体的な業務行動を根拠にして、職能要件に照らして顕在化した能力を考課する。

成績考課

成績考課では、上司と合意した目標の達成度合いや結果をみる。一言でいえば、「やる」「やれ」と言ったことをどれだけやったかを評価する。具体的には、仕事の成果そのもの、仕事の質、仕事の量、仕事の難易度などを考慮して決定する。また成績考課は、原則「結果」をありのままに考課し、修正しない。例えば、一人では出来なかった提案書について、上司がアドバイスしたために完成し、受注することができた場合でも、成績考課は「期待どおりできた」と評価する。上司がアドバイスしたので、それを差し引いた低い評価にしてはならない。

成績考課は、あくまでも対象期間内の職務行動とその結果だけをみる。それゆえ次の内容は考課の対象外である。対象期間以前の行動、アフターファイブ や休日など勤務時間外の行動、発揮されていない潜在能力、性格や人格などで考課してはならない。また多くの組織で、管理職ならば自身の上司と明確な合意をしなくとも、部下の指導・育成は常に目標であると考えられている。

能力考課

能力考課は、発揮された成績・成果を通じて、社員の現在保有している能力を分析的に考課する。一言でいえば、等級にふさわしい能力を発揮したかを考課する。能力考課は業務遂行の基礎となる習得能力と業務を通じて伸長される習熟能力がある。習得能力とは、業務に関する基礎的な知識や技術を指す。商品知識や各種情報などがこれに該当する。いわゆる勉強や学習で直接の業務経験がなくても身につく基本的な能力を指す。これに対して習熟能力とは、業務を通じて 伸長される折衝力などを指す。これらは業務を経験しなければ身につかない。(表1参照)

表1:能力考課の例
区分 項目 内容
習得能力 知識・情報 業務を遂行するための商品やサービスなどの知識・情報
基本的な技能 PCなど基本的な道具を活用する技能
習熟能力 判断力 情報の比較、識別、評価、総合化や状況、条件に適合した仕事の手段、方法を決めたり、変化への対応措置ができたりする能力
決断力 部門目標を達成するため、あるいは特命を受け、いくつかの代替案から有効なものを選び、決定実行する能力
工夫力 担当する仕事の方法・手段について自ら改善し得る能力
企画力 職務を遂行するため、方法・手段を効果的にとりまとめ、展開し得る能力や創造的アイデアを現実的・具体的にまとめる能力
開発力 将来の予測・見通しに立ち、担当する分野での新しい方法を創案し、具体化に向けて展開し得る能力
表現力 伝達しようとする意思・目的や報告すべき内容を口頭・文書で的確に表現できる能力
折衝力 仕事を進める上で他人と折衝し、自分の意図・考えを相手に伝え、納得させる能力

更に、能力考課をするときは、中間項も考慮しなければならない。一般的に「能力の高まりは、良い仕事の成果を生む」といえる。しかし成績と能力は常 にイコールではない。なぜなら、成績と能力の間に介在するもの「中間項」がある場合があるからである。具体的には以下の外部要因、内部要因、本人要因の3 つの中間項を確認する。(表2参照)

能 力 → 中間項 → 成 績

表2:中間項の要因
項目 内容
外部要因 組織や本人では対応できない天災、気候、為替などの不可抗力
内部要因 上司の指示・命令、支援のあり方など会社内での状況(管理職は、これに対応するのも能力とみなされることが多い)
本人要因 本人の体調不良、病気など

情意考課

情意考課とは、職務に取り組む意欲・姿勢と努力度を考課する。いくら成果や能力が高くても、仕事への取り組み姿勢や働く意欲が低くては組織人として 失格である。逆に一生懸命に努力しても目標を達成できないこともある。結果だけでなくそのプロセスも考課することにより、部下の仕事への意欲を高め、育成に結びつけることができる。ただし情意考課は、性格を考課することではない。具体的には以下の4つの項目:規律性、積極性、責任性、協調性で考課する。 (表3参照)情意考課はイメージに流されやすい。イメージではなく、行動や事実に即して適確に判断することが大切である。

また積極性は規律性の上に、協調性は責任性の上に成立していると考えられている。(図5参照)つまり積極的な工夫改善も、ルールを守るという規律性 が守られていなければ、評価に値しない。また自分の仕事がおろそかになっているのに、他者の仕事を手伝うという行動も本末転倒なので、協調性で評価はでき ない。

表3:情意考課の項目
項目 内容
規律性 職務遂行にあたっての職場規律の遵守の度合い。コンプライアンスなど
積極性 改善提案、仕事の質的・量的向上など今以上を目指す意欲、姿勢の度合い
責任性 担当業務への役割を果たそうとする意欲と姿勢の度合い
協調性 組織の一員としての自覚を持ち、担当した仕事の範囲外でチームワークにプラスとなる行動の度合い

図5:情意考課の構造

評価の手順とルール

公正に考課するには、行動の選択、要素の選択、段階の選択を確実にする必要がある。(図6参照)決して結果から逆算してはならない。なぜなら、逆算すると判断を誤るだけでなく、上司への信頼が根底から崩れる恐れがあるからだ。

図6:評価の3つのステップ

行動の選択

行動の選択では、期間と対象行動に注意する。成績考課などの対象期間は通常1年間である。それ以前の期間は当然対象外となる。しかし、この1年間の行動を全て覚えている管理職はいないだろう。特に複数の部下がいる場合は、その記憶は通常怪しくなる。人事考課は考課用紙に記入する時だけではなく、日頃から業務に関係のある部下の行動事実を観察し、記録しておくことが重要である。記憶より記録である。事実に基づいて考課し、決してイメージで判断してはならない。また次の項目は人事考課の対象とはならない。勤務時間外の行動。単なる不平・不満、愚痴、本人の属性(性別、学歴、趣味、性格、容貌等)有給休暇の取得率で、善し悪しの判断をしてはならない。

能力考課は、1年では伸長が見られないこともあるので、複数年にわたりその進捗をみることが必要である。また自己啓発について、学習中は評価の対象 行動とせず、業務で能力が発揮されたときに過去に遡り評価している組織もある。具体的には、中国語の勉強をしていたが、業務で使用することはなかった。し かし「今年は中国担当になり、語学が出来ることから早期に信頼関係を築くことができたので、評価する」という具合である。以下に考課項目と期間、内容を整理する。(図7参照)

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要素の選択

ある1つの業務を考課するときは、成績考課、能力考課、そして情意考課で考課できる。能力考課は習得能力と習熟能力のいずれか、もしくは両方で考課できる。しかし習熟能力の企画力で考課した場合、ひとつの業務で、企画力と判断力の両方で考課することはできない。これを島のルールという。1つの行動は 1つの島の中では1回しか考課できない。言い換えれば、島が違えば最大4回考課できる。(図8および1参照)

図8:島のルール

例を用いて考課の手順を確認する。まず成績考課をする。次に、能力考課をする場合は、「習得能力の島」から、最も妥当性が高い項目(今回は知識とす る)で考課する。更に「習熟能力」の島にある項目である「判断力」「企画力」「折衝力」「指導力」等のなかから、最も妥当性の高い項目(今回は企画力とす る)1つに結び付けて考課する。他の「工夫力」などでは考課しない。ひとつの島では1つだけを選択する。同様に情意考課(情意の島)では「規律性」「責任性」「積極性」「協調性」の考課要素から最も妥当性の高い項目(今回は責任性とする)を一つだけ選び、考課する。まとめると、1つの職務行動は最大4つの 考課要素に結びつけて考課できる。それぞれの項目の選択には、行動を考課項目の内容に照らして、最も妥当性の高い要素で判断する。

段階の選択

考課要素と総括・統一的指標はそれぞれ下記のとおりである。

成績考課、情意考課の指標
評価 内容
S 上位等級レベルの目標を大幅に上回った(上位等級のA)
A 目標を大幅に上回った(期待より上)
B 目標どおり(多少問題はあったが目標は達成できた)
C 目標を下回った(水準を下回ったが、業務に支障をきたすほどの問題では無かった。)
D 当初の目標を大幅に下回る結果となった。(業務に支障をきたした)

※情意考課に、Sはない。申し分なくできていて「A」、どうにか合格点のとき、つまり周囲に迷惑をかけないレベルで、「B」。規律性は、守って当然の項目なので「S」はもちろん、「A」もない。

能力考課の指標
評価 内容
S 上位資格等級の職能要件を十分に溝たす能力を保有し、発揮できる。現等級より広範囲かつ質の高い職務遂行能力を十分に保有している。
A 現等級の職能要件を十分に満たす能力を発揮し、保有している。現等級より広範囲かつ質の高い職務遂行能力を保有している。
B 現等級の職能要件を概ね満たす能力を発揮し、保有している。本人の努力次第で、より質の高い職務遂行能力を身につけることが期待できる
C 現等級の職能要件に対して、発揮し保有する能力がやや不足しているが、業務に支障をきたすほどの問題は無かった。今後の指導、援助と本人の努力が必要である。
D 現等級の職能要件に対し、発揮し保有する能力がかなり不足している。今後の強力な指導と本人の相当な努力が不可欠である。

犯しやすい各種エラー

種類 概要 対策
イメージ考課 事実に基づかない考課
彼はこの部署に来て長いから、きっと知識が豊富だろう。彼は理科系の出身だから、数字に強いに違いないとった属性などから推測で考課する
行動の選択
(事実に即す)
ハロー効果 1つの事実で複数の要素を評価
彼は非常に責任性が高い男だ。きっと積極性もあるだろう。彼は判断力が低い。企画力も無いに違いない。一つよければ全て良く見えたり、逆に一つ悪いと何もかも悪く見えてしまったりする
要素の選択
(島のルールを守る)
寛大化傾向 あまく評価してしまう
私の部下はかわいい。悪い考課は付けられない。あいつにこんな考課を付けたら、何を言い出すかわからない。甘い考課で、SやAのオンパレードになってしまう。
段階の選択
(期待通りはB)
中心化傾向 差をつけない、つけたくない
ほとんどBの真ん中に偏った評価になってしまう
段階の選択
(期待通りはB)
対比誤差 複数の部下や自分と比べる
自分の得意なことは辛く、不得意なことは甘く考課する
段階の選択
(絶対考課、基準を明確にしておく)
直近考課 全期間を対象にしていない
考課1ヶ月前くらいの事実だけで評価してしまう
行動の選択
(該当期間の事実に即す)

次稿では、各種ケーススタディを用いて、より実践的なルールの運用確認、考課事例など実践活用スキルを向上させていく

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